音の速さ
音は圧縮の波である。空気が押されて縮み、次の空気を押し、また膨らむ。この波の速さは空気の二つの性質で決まる。どれだけ圧縮されにくいかと、どれだけ重いかである。
ニュートンの式 1687 年の『プリンキピア』で、ニュートンははじめて音の速さを計算した。空気は圧縮されるときボイルの法則に従う、つまり圧力が密度に比例すると仮定して、彼は
$$v = \sqrt{\frac{P}{\rho}}$$を得た。海面の高さ、20 °C では、圧力は $P = 101\,325$ Pa、空気の密度は $\rho = 1.204$ kg/m³ である。式からは
$$v = \sqrt{\frac{101\,325}{1.204}} \approx 290 \text{ m/s}$$となる。ところが測定ではおよそ 340 m/s、15% ほど大きかった。ニュートンは空気の粒子の大きさや水蒸気といった無理のある仮説でこの差を説明しようとした。それから百年以上、この食い違いは説明されないままだった。
熱くなる空気 誤りを見つけたのはラプラスである。気体は圧縮されると熱くなる。手押しの空気入れで自転車のタイヤに空気を入れたことのある人なら知っているだろう。ボイルの法則が成り立つのは温度が一定のときである。しかし音波の圧縮はとても速いので、熱が逃げる暇がない。圧縮された空気はわずかに熱くなり、そのためニュートンが仮定したより強く押す。今日では、この圧縮は等温ではなく断熱だという。
数学的に言えば、流体中の波の速さは $v = \sqrt{\frac{dP}{d\rho}}$、すなわち密度が上がったとき圧力がどれだけ上がるかで決まる。等温圧縮では $P = k\rho$ で
$$\frac{dP}{d\rho} = \frac{P}{\rho}.$$断熱圧縮では $P = k\rho^\gamma$ で、$\gamma$ は気体の定圧比熱と定積比熱の比である。このとき
$$\frac{dP}{d\rho} = k\gamma\rho^{\gamma-1} = \gamma\,\frac{P}{\rho}.$$したがって、ラプラスが 1816 年に発表した正しい式は
$$v = \sqrt{\frac{\gamma P}{\rho}}$$である。空気では $\gamma \approx 1.40$ だから、補正はニュートンの結果に $\sqrt{1.40} \approx 1.183$ を掛けることになる。
$$v \approx 290 \times 1.183 \approx 343 \text{ m/s}.$$まさに測定値である。ラプラスは議論を逆向きにも使った。$\gamma$ を直接精密に測れるようになる前に、測定された音速から $\gamma$ を見積もったのである。