基本定理:d と ∫ が打ち消し合うとき
微積分以前、接線と面積は関係のない二つの問題だった。曲線の接線を見つけるのは一つの技であり、その下の面積を見つけるのは別の技だった。17 世紀の大発見は、アイザック・バロー、ニュートン、ライプニッツによる、一方が他方の逆であるという発見だった。これが微積分の基本定理であり、ライプニッツの記法はそれをほとんど当たり前のように書く。
ライプニッツ:和と差のように ライプニッツは $\int$ を和、$d$ を差と考えた。差を足し合わせると差が打ち消される。階段の段差を足せば全体の高さになるのと同じである。彼は、$\int$ と $d$ は「ふつうの計算でのべきと根のように」互いに逆であると書いた。記号では
$$d\!\int y\,dx=y\,dx,\qquad\int dy=y.$$$d$ と $\int$ は、$+3$ と $-3$ のように「打ち消し合う」。最も強い意味での能動的な記法である。微積分で最も重要な定理が、式を簡単にする規則として現れるのだ。
現代の書き方での二つの半分 今日、この定理は二つの部分に分けて書かれる。
第一部:面積を微分する。 $A(x)=\displaystyle\int_a^x f(t)\,dt$ を $a$ から $x$ までに積み重なった面積とすると、
$$\frac{d}{dx}\int_a^x f(t)\,dt=f(x).$$面積が増える速さは、今いる点での曲線の高さである。積分のなかの文字が $x$ ではなく $t$ であることに注意しよう。$x$ はすでに上端として使われている。$\int_a^x f(x)\,dx$ と書けば、第3章の変数の捕獲という誤りになる。
第二部:導関数を積分する。 $F'=f$ なら
$$\int_a^b f(x)\,dx=F(b)-F(a)=\Big[F(x)\Big]_a^b.$$上端と下端のついた括弧は、つなぎの記法である。数を代入するまでのあいだ $F$ を保っておく。これを使えば、前の文章で無限に多くの長方形を必要とした面積が、一行で出てくる。
$$\int_0^2x^2\,dx=\left[\frac{x^3}{3}\right]_0^2=\frac83-0=\frac83.$$記法が隠しているもの $d$ と $\int$ の打ち消し合いは完全ではない。不定積分では
$$\int\frac{dF}{dx}\,dx=F(x)+C$$となり、打ち消し合いが予告しない定数 $C$ が現れる。微分は定数を消してしまい、積分はどの定数を返せばよいかを知らない。$+C$ を忘れるのは微積分の授業で最もよくある誤りであり、その源は記号論的である。記法は完全な逆を示唆しているのに、実際には定数の違いを除いた逆しかないのである。
教授職を退いたバロー
ケンブリッジでニュートンの先生だったアイザック・バローは、1670 年、図形だけを使い代数的な記号をまったく使わない基本定理の幾何学版を発表した。定理はそこにあったが、幾何学のなかに深く隠れていて、その重要性に気づく人はほとんどいなかった。その少し前の 1669 年、バローは教授職をニュートンに譲っていた。同じ考えが、$d$ と $\int$ で書かれると一つの理論の心臓になり、図形で書かれると数ある命題の一つにとどまったのである。 練習:上端が動く面積を微分する$\dfrac{d}{dx}\displaystyle\int_0^{x^2}\cos t\,dt$ を計算せよ。
$A(u)=\int_0^u\cos t\,dt$ とおくと、$A'(u)=\cos u$。式は $A(x^2)$ なので、連鎖律により導関数は $A'(x^2)\cdot2x=2x\cos(x^2)$。第二部で確かめると、$\int_0^{x^2}\cos t\,dt=\sin(x^2)$ で、その導関数は $2x\cos(x^2)$ である。