導関数と積分
『解析教程』の二年後、コーシーは『王立エコール・ポリテクニークにおける無限小計算講義要録』(1823)を出版した。四十の短い講義で、彼は微分学と積分学を極限の考えで建て直した。これは本質的に、微積分の教科書が今日でもしたがっている筋道である。
導関数
ラグランジュにとって、$f$ の導関数とは、$f(x + i)$ のべき級数における $i$ の係数だった。コーシーはそれを極限として定義した。
$$f'(x) = \lim_{i \to 0} \frac{f(x + i) - f(x)}{i}.$$$f(x) = x^2$ なら、$\frac{(x + i)^2 - x^2}{i} = \frac{2xi + i^2}{i} = 2x + i$ で、これは $2x$ に向かう。$i$ が「無限に小さい」と仮定する必要も、何かを捨てる必要もない。$i \neq 0$ で商を計算し、それがどこへ向かうかを見ればよい。
積分
それまで、積分するとはおもに原始関数を見つけることだった。積分は微分の逆だったのである。コーシーは順序を逆にし、積分を直接定義した。$f$ が $[x_0, X]$ で連続なとき、区間を点 $x_0 < x_1 < \cdots < x_n = X$ で分け、和
$$S = (x_1 - x_0) f(x_0) + (x_2 - x_1) f(x_1) + \cdots + (X - x_{n-1}) f(x_{n-1})$$をつくる。コーシーは、すべての小区間が小さくなるとき、$S$ が区間の分け方によらない極限に近づくことを証明した。この極限が積分 $\int_{x_0}^{X} f(x)\,dx$ である。三十年後、リーマンはこの定義を不連続な関数にまで広げ、各小区間で任意の点を選べるようにした。
基本定理
積分が独立に定義されると、微分とのつながりは定義ではなく定理になる。$F(x) = \int_{x_0}^{x} f(t)\,dt$ とおく。すると
$$F(x + \alpha) - F(x) = \int_x^{x+\alpha} f(t)\,dt = \alpha\, f(x + \theta\alpha), \quad 0 \le \theta \le 1.$$連続関数の区間上の積分は、区間の長さに関数のある中間の値を掛けたものに等しいからである。$\alpha$ で割って $\alpha \to 0$ とすると、連続性から $F'(x) = f(x)$ が得られる。積分と微分はたがいに逆の操作であり、いまやその理由がわかる。
コーシーの平均値の定理
ラグランジュの平均値の定理は、$a$ と $b$ のあいだに $f(b) - f(a) = f'(c)(b - a)$ となる点 $c$ があるというものだ。コーシーは二つの関数をもつ形を証明した。
$$\big(f(b) - f(a)\big)\, g'(c) = \big(g(b) - g(a)\big)\, f'(c).$$現代の証明は短い。関数 $h(x) = \big(f(b) - f(a)\big) g(x) - \big(g(b) - g(a)\big) f(x)$ は $a$ と $b$ で同じ値をとる(確かめよう。どちらも $f(b)g(a) - g(b)f(a)$ になる)。だからその導関数は両者のあいだのある点 $c$ で消え、それが公式である。
大きな応用はロピタルの定理である。$f(a) = g(a) = 0$ なら、公式を $a$ と $x$ のあいだで使うと
$$\frac{f(x)}{g(x)} = \frac{f(x) - f(a)}{g(x) - g(a)} = \frac{f'(c)}{g'(c)}$$となり、$c$ は $a$ と $x$ のあいだにある。$x \to a$ のとき $c \to a$ でもあるから、$\frac{f}{g}$ の極限は $\frac{f'}{g'}$ の極限に等しい。ヨハン・ベルヌーイが 1694 年にロピタル侯爵に教えたこの規則は、130 年後に証明を得たのである。
演習:コーシーの点
区間 $[0, 1]$ で $f(x) = x^3$、$g(x) = x^2$ について、コーシーの平均値の定理の点 $c$ を求めよ。
$f(1) - f(0) = 1$、$g(1) - g(0) = 1$ だから、公式は $1 \cdot g'(c) = 1 \cdot f'(c)$、つまり $2c = 3c^2$ となる。区間の端である $c = 0$ を除けば解は $c = \frac{2}{3}$ で、たしかに 0 と 1 のあいだにある。
演習:三回微分する極限
$\displaystyle\lim_{x \to 0} \frac{\sin x - x}{x^3}$ を求めよ。
分子も分母もゼロに向かう。コーシーが正当化した規則により、極限は $\frac{\cos x - 1}{3x^2}$ の極限に等しいが、これもまだ $\frac{0}{0}$ である。もう一度使うと $\frac{-\sin x}{6x}$、さらにもう一度使うと $\frac{-\cos x}{6} \to -\frac{1}{6}$。$x = 0.1$ で確かめると、$\frac{0.0998334 - 0.1}{0.001} \approx -0.1666$ となる。
出典: Augustin-Louis Cauchy、Résumé des leçons données à l’École royale polytechnique sur le calcul infinitésimal(1823) · Augustin-Louis Cauchy、Leçons sur le calcul différentiel(1829) · Judith V. Grabiner、The Origins of Cauchy’s Rigorous Calculus(1981)。