地球と同じ密度をもち、直径が太陽の 250 倍ある光る星は、その引力のために、光線のひとつとして私たちのもとに届かせないだろう。それゆえ、宇宙でもっとも大きな光る天体は、まさにそのために見えないということがありうる。 — ピエール=シモン・ラプラス『宇宙体系解説』(1796) この文は『宇宙体系解説』の初版にある。ラプラスがこれを書いたのは、ニュートンと同じく光が粒子でできていると信じられていた時代だった。光が微粒子の群れなら、重力は石を引くのと同じようにそれを引くはずである。とすれば、星が十分に小さく詰まっていれば、放たれた光は上に投げた石のように落ちてくるだろう。 脱出速度 質量 $M$、半径 $R$ の天体の表面から速さ $v$ で上に投げた石が永久に逃げ切るのは、運動のエネルギーが重力のエネルギーに勝つときに限る。 $$\frac{1}{2}mv^2 \ge \frac{GMm}{R} \quad\Longleftrightarrow\quad v \ge v_e = \sqrt{\frac{2GM}{R}}.$$石の質量は消える。脱出速度 $v_e$ は天体だけで決まるのである。地球では約 11.2 km/s、太陽では 618 km/s である。 密度と大きさ 密度 $\rho$ の天体の質量は $M = \frac{4}{3}\pi R^3 \rho$ だから、代入すると $$v_e = \sqrt{\frac{2G}{R}\cdot\frac{4}{3}\pi R^3\rho} = R\,\sqrt{\frac{8\pi G\rho}{3}}$$となる。密度を固定すれば、脱出速度は半径に比例して大きくなる。これがまさにラプラスの推論だった。彼は $v_e = 618$ km/s、平均密度 1.41 g/cm³ の太陽から出発し、太陽の 250 倍の大きさで地球の密度 5.51 g/cm³ をもつ天体を考えた。 $$v_e \approx 618 \times 250 \times \sqrt{\frac{5.51}{1.41}} \approx 618 \times 250 \times 1.98 \approx 305\,000 \text{ km/s}.$$光の速さ $c \approx 300\,000$ km/s を少し超える。このような天体の光は逃げ出せない。
惑星がある一点をどう引きつけるかを知るには、惑星の各部分の引力をすべて足さなければならない。各部分はそれぞれ違う向きに引くし、力を足すのは手間がかかる。力はベクトルで、それぞれ三つの成分をもつからだ。十八世紀の数学者たちは近道を見つけ、ラプラスはそれを道具に仕立てた。 矢印ではなく数を足す 一点に集中した質量 $M$ について、次の数を考える。 $$V = \frac{M}{r}.$$ここで $r$ は質量までの距離である(定数 $G$ は省く)。のちにポテンシャルと呼ばれるこの数は、力についての情報をすべてもっている。各方向の引力の成分は、その方向への $V$ の微分なのである。そして大きな利点は、質量がいくつあってもポテンシャルは数としてそのまま足せることだ。まず惑星のすべての部分のポテンシャルを足し、それから微分すれば力が得られる。 方程式 ラプラスは、質量の外のどの点でも、ポテンシャルがとても簡単な方程式に従うことに気づいた。 $$\frac{\partial^2 V}{\partial x^2} + \frac{\partial^2 V}{\partial y^2} + \frac{\partial^2 V}{\partial z^2} = 0.$$今日では $\nabla^2 V = 0$ と書き、記号 $\nabla^2$ をラプラシアンと呼ぶ。ラプラスは 1782 年、惑星の形についての論文でこの方程式を球座標で発表し、1787 年には土星の環を研究するなかで上のような直交座標の形で示した。 原点に置いた一つの質量で確かめてみる価値がある。$r = \sqrt{x^2+y^2+z^2}$、$V = \frac{1}{r}$ とすると $$\frac{\partial V}{\partial x} = -\frac{x}{r^3}, \qquad \frac{\partial^2 V}{\partial x^2} = -\frac{1}{r^3} + \frac{3x^2}{r^5}.$$三方向を足すと $$\nabla^2 V = -\frac{3}{r^3} + \frac{3(x^2+y^2+z^2)}{r^5} = -\frac{3}{r^3} + \frac{3}{r^3} = 0.$$方程式は線形だから、解の和もまた解である。どんな質量の集まりのポテンシャルも、その外ではこの方程式を満たす。ラプラス方程式を満たす関数を調和関数という。