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数の対としての複素数

十九世紀のはじめには、複素数はカルダーノやボンベリ以来三百年使われており、オイラーはそれを使って驚くべき成果をあげていた。ヴェッセル、アルガン、ガウスはそれを平面上の点として描いていた。それでも落ち着かなさは残っていた。いったい $\sqrt{-1}$ とは何なのか。二乗すると負になる数は、数学の対象というより、役に立つ作り話に見えた。 ハミルトンは何も描かずにこの問題を解決した。1833 年と 1835 年に王立アイルランド・アカデミーに提出し、1837 年に発表した論文『共役関数、すなわち代数的対の理論』で、彼は複素数とは実数の順序対そのものであり、それ以上のものではないと提案した。 ゲームの規則 対 $(a, b)$ と $(c, d)$ について、ハミルトンは次のように定義した。 $$(a, b) + (c, d) = (a + c,\; b + d), \qquad (a, b)\cdot(c, d) = (ac - bd,\; ad + bc).$$$(a, 0)$ のかたちの対は実数とまったく同じようにふるまう。$(a, 0) + (c, 0) = (a + c, 0)$、$(a, 0)\cdot(c, 0) = (ac, 0)$ である。だから $(a, 0)$ を単に $a$ と書いてよい。そして対 $(0, 1)$ は特別な性質をもつ。 $$(0, 1)\cdot(0, 1) = (0 \cdot 0 - 1 \cdot 1,\; 0 \cdot 1 + 1 \cdot 0) = (-1, 0) = -1.$$$(0, 1)$ を $i$ と呼べば、対 $(a, b)$ は $a + bi$ であり、$i^2 = -1$ となる。「マイナス一の平方根」は謎ではなくなった。それは、はっきり定められた掛け算の規則に従う実数の対である。複素数について行うことはすべて、実数の算術で確かめることができる。

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四元数:橋の上の公式

複素数が実数の対であり、その掛け算が平面を回すことを示したあと、ハミルトンは同じことを空間で行いたいと考えた。彼は三つ組 $a + bi + cj$ と、絶対値の法則を満たす掛け算を探していた。積の大きさは大きさの積でなければならない。何年も、とりわけ 1843 年には熱心に試み、子どもたちが毎朝、三つ組はもう掛けられるようになったかと尋ねるほどだった。 三つではなぜだめか 算術の中に障害が隠れている。もし絶対値の法則を満たし、係数が整数である三つ組の掛け算の規則があれば、三つの平方の和どうしの積は、いつも三つの平方の和になるはずだ。ところが $$3 = 1^2 + 1^2 + 1^2, \qquad 5 = 2^2 + 1^2 + 0^2, \qquad 3 \times 5 = 15$$であり、$15$ は三つの平方の和ではない(試してみよう。使える平方は $0, 1, 4, 9$ で、どの三つを組み合わせても $15$ にはならない)。四つの平方なら難しさは消える。$15 = 9 + 4 + 1 + 1$ である。しかも 1748 年以来、オイラーの四平方恒等式が知られていた。四つの平方の和どうしの積はいつも四つの平方の和になる、というものだ。自然は三つではなく四つの部分を求めているように見えた。 散歩 1843 年 10 月 16 日、月曜日、ハミルトンは王立アイルランド・アカデミーの会議の議長を務めるため、妻とともにロイヤル運河沿いをダンシンクからダブリンへ歩いていた。二十二年後、彼は自らその場面を息子に語っている。 妻はときどき話しかけてきたが、わたしの心の中では思考の底流が続いていて、それがついに一つの結果をもたらした。その重要さをすぐに感じたと言っても言いすぎではない。電気の回路が閉じたように思われ、火花が飛んだ。[……] そして、哲学的とは言えなかったかもしれないが、ブルーアム橋を通りかかったとき、記号 i、j、k を使った基本公式をナイフでその石に刻みたいという衝動を、わたしは抑えることができなかった。 — ウィリアム・ローワン・ハミルトン、息子アーチボルドへの手紙(1865) その公式は $$i^2 = j^2 = k^2 = ijk = -1$$である。

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イコシアン・ゲームとハミルトン閉路

1856 年、まだ非可換な代数に取り組んでいたハミルトンは、イコシアン算法を発明した。三つの記号 $\iota$、$\kappa$、$\lambda$ が次の規則に従う。 $$\iota^2 = 1, \qquad \kappa^3 = 1, \qquad \lambda^5 = 1, \qquad \lambda = \iota\kappa.$$今日の言い方では、これらは二十の三角形の面をもつ正二十面体の回転群を生成する。ハミルトンは 1857 年にダブリンで開かれた英国科学振興協会の会合でこの算法を発表し、それが正十二面体、つまり十二の五角形の面と二十の頂点をもつ立体の辺に沿った道筋を表すことに気づいた。 パズル このアイデアを広めるため、ハミルトンは十二面体を平たく押しつぶして盤の上に描き、二十の頂点に穴をあけて、それぞれに都市の名をつけ、番号のついた二十本のピンを添えた。課題は、ある都市から出発し、辺だけをたどって、ほかのすべての都市をちょうど一度ずつ訪れ、出発点に戻ることである。1859 年、彼はロンドンのゲーム製造業者ジョン・ジャックス社に権利を 25 ポンドで売った。ゲームは『イコシアン・ゲーム』として、また『旅人の十二面体』という携帯版として売られたが、商業的には失敗だった。少し根気があれば、基本の課題は数分で解けてしまうのだ。 サンパウロ大学数学統計研究所のマテマテカが所蔵するイコシアン・ゲームの複製。番号のついたピンが、二十の頂点をめぐる旅の順序を示している。Estes Objethos Atelier、撮影 Alisson Ricardo · Wikimedia Commons · CC BY-SA 4.0 やってみよう。文字は、ハミルトンが都市の名に使った子音である。 この対話型の図を使うには JavaScript を有効にしてください。議論の全体は本文にあります。 オイラーは解き、ハミルトンは解けない すべての頂点をちょうど一度ずつ通って出発点に戻る道筋は、今日ハミルトン閉路と呼ばれる。この問いは、オイラーがすべての辺をちょうど一度ずつ渡ろうとしたケーニヒスベルクの橋のいとこのように見える。だが二つはまったく違う。辺については、オイラーが 1736 年に簡単な判定法を与えた。各頂点から何本の辺が出ているかを見ればよい。頂点については、簡単な判定法を誰も知らない。1972 年、リチャード・カープはハミルトン閉路問題を NP 完全問題のリストに入れた。これを速く解く方法を見つけた者は、何千もの難問を速く解く方法を手にし、クレイ研究所から百万ドルを得ることになる。 そのいちばん有名な親戚が巡回セールスマン問題である。ある地図のすべてのハミルトン閉路のうち、どれが最も短いか。配達経路、回路基板の穴あけ、DNA の配列決定などに現れる。 カークマンが先だった ハミルトンより二年早い 1855 年、イギリスの聖職者で数学者のトマス・カークマンは、どの多面体がすべての頂点をちょうど一度ずつ通る閉路をもつかをすでに問い、それが不可能な例も示していた。名前は、より有名で、売り物のゲームをもっていたハミルトンのものになった。 練習:辺を数える正十二面体では、20 個の頂点のそれぞれが 3 本の辺に接している。辺は何本あるか。また、ハミルトン閉路はそのうち何本を使うか。 頂点ごとに数えると $20 \times 3 = 60$ 個の辺の端があり、一本の辺には端が二つあるので、$60 / 2 = 30$ 本である。ハミルトン閉路は 20 個の頂点を通って戻るので 20 本の辺を使い、残りの 10 本は使われない。

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筋の通った誤り:まちがった規則

クラスで $(a+b)^2$ はいくつかと聞くと、一部の生徒は $a^2 + b^2$ と答える。$\sqrt{9 + 16}$ はいくつかと聞くと、だれかが $3 + 4 = 7$ と言う。これらの誤りはあまりにありふれていて、学校がちがってもあまりに似ているので、偶然ではありえない。ある規則に従っているのである。 広げすぎた規則 1982 年、アメリカの研究者マリリン・マッツは高校生の代数の誤りを調べ、その多くが正しい規則から組み立てられたまちがった規則(malrules)から来ていると提案した。中でもいちばん多くの誤りを生むのは分配法則である。 $$a(b + c) = ab + ac.$$これは正しく、早くから出てきて、いつも使われる。生徒は「外にあるものは各項に入る」と覚え、だれもそうではないと言わなかったので、和に何かの演算をほどこしているように見えるものすべてに、その動作を広げる。 $$(a+b)^2 \overset{?}{=} a^2 + b^2, \quad \sqrt{a+b} \overset{?}{=} \sqrt{a} + \sqrt{b}, \quad \frac{1}{a+b} \overset{?}{=} \frac{1}{a} + \frac{1}{b}, \quad \sin(a+b) \overset{?}{=} \sin a + \sin b.$$どれもまちがっている。どれも分配法則と同じ形をしている。記法の観点から見ると、生徒は書かれたものをとてもよく読んでいる。見た目のパターンを見つけ、それを一貫して当てはめている。欠けているのは、形だけでは足りないと知ることである。分配法則がかけ算について成り立つのは、かけ算がどういうものかによるのであって、かっこの見た目によるのではない。 この対話型の図を使うには JavaScript を有効にしてください。議論の全体は本文にあります。 虫めがねとしての反例 まちがった規則をくずす道具は反例、つまりその規則が成り立たないたったひとつの場合である。$a = 3$、$b = 4$ とすると、$(a+b)^2 = 49$、$a^2 + b^2 = 25$。これで終わりだ。規則は死んだ。$(ab)^2 = a^2 b^2$ のような正しい規則は、どんな試しにも生き残る。上の図で試してみることができる。

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参考文献と図版出典

さらに読むために Usiskin, Zalman. Conceptions of school algebra and uses of variables. In: Coxford, A. F.; Shulte, A. P. (eds.). The Ideas of Algebra, K–12. Reston: NCTM, 1988, pp. 8–19. Küchemann, Dietmar. Algebra. In: Hart, K. M. (ed.). Children’s Understanding of Mathematics: 11–16. London: John Murray, 1981, pp. 102–119. Clement, John; Lochhead, Jack; Monk, George S. Translation difficulties in learning mathematics. The American Mathematical Monthly, 88(4), 1981, pp. 286–290. MacGregor, Mollie; Stacey, Kaye. Students’ understanding of algebraic notation: 11–15. Educational Studies in Mathematics, 33, 1997, pp. 1–19. Philipp, Randolph A. The many uses of algebraic variables. The Mathematics Teacher, 85(7), 1992, pp. 557–561. Kieran, Carolyn. The learning and teaching of school algebra. In: Grouws, D. A. (ed.). Handbook of Research on Mathematics Teaching and Learning. New York: Macmillan, 1992, pp. 390–419. Kleiner, Israel. Evolution of the function concept: a brief survey. The College Mathematics Journal, 20(4), 1989, pp. 282–300. Cajori, Florian. A History of Mathematical Notations. 2 vols. Chicago: Open Court, 1928–1929. コス記号、ヴィエトとデカルトの文字、$f(x)$、ハーシェルの $\sin^{-1}$ について。 Heath, Thomas L. Diophantus of Alexandria: A Study in the History of Greek Algebra. Cambridge: Cambridge University Press, 1910. Viète, François. In artem analyticem isagoge. Tours: Jamet Mettayer, 1591. l’Hôpital, Guillaume de. Analyse des infiniment petits, pour l’intelligence des lignes courbes. Paris: Imprimerie Royale, 1696. 関数を穴のあいた文とみる考えは、このサイトの関数についての古い記事から得たもので、第 1 章で使い、ここでもふたたび取り上げました。

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文字の読み方:手引きと用語集

この章では、一つの文字が少なくとも五つの違う仕事をすることができ、書かれたものはそれがどれかをほとんど言わないことを見てきました。以下の手引きは、それを見つけ出すのに役立つ問いをまとめたものです。 文字についての五つの問い 値を隠しているのか、どんな値でも表すのか。 隠しているなら未知数で、課題はそれを見つけることです。どんな値でも表すなら、その文は一般的な法則か恒等式です。 問題のあいだに動くか。 動くなら変数で、それが何に依存し、何がそれに依存するかを問う価値があります。 ほかの文字が動くあいだ止まっているか。 それならパラメータか定数です。$\pi$ のようにいつまでも固定なのか、$ax^2$ の $a$ のようにこの問題でだけ固定なのかを問う価値があります。 演算子に縛られているか。 $\Sigma$、$\int$、$\forall$、$\mapsto$ の中に現れるなら束縛された文字で、別の文字に替えても何も変わりません。 文中のどの言葉が役割を告げているか。 「求めよ」「すべての」「とする」「とき」「が与えられたとき」。どれも現れないなら、その分野の慣習が決めます。それをはっきりさせておくとよいでしょう。 y = ax² + bx + c の完全な読み方 $y$ と $x$: 変数。$x$ が独立変数、$y$ が従属変数です。いっしょに放物線上の点をたどります。 $a$、$b$、$c$: パラメータ。問題のあいだ固定され、どの放物線かを選びます。$a$ はゼロであってはならず、そうでないと曲線は直線になってしまいます。 問いが変われば役割も変わる。 「放物線は $x$ 軸とどこで交わるか」では $y=0$ とおき、$x$ が未知数になります。「$(1,2)$、$(2,3)$、$(3,6)$ を通る放物線はどれか」では、パラメータが未知数になり、$x$ と $y$ は与えられたデータになります。$a+b+c=2$、$4a+2b+c=3$、$9a+3b+c=6$ から、$a=1$、$b=-2$、$c=3$。 ダミーの文字は一つもない。 どれも大事です。$a$ を $k$ に替えるなら、文章全体で替えなければなりません。 短い一行に三つの違う役割があり、問いが変わるたびにすべてが組み替えられるのです。 用語集 未知数。 問題の条件によって決まる、まだ知られていない一つの値を表す文字。$2x+1=7$ では $x=3$。 一般化された数。 ある集合の任意の要素を表す文字で、その文はすべての要素について成り立つ。$a+b=b+a$ のように。 恒等式。 文字のすべての値について正しい等式。$(a+b)^2=a^2+2ab+b^2$ など。解くのではなく、証明するもの。 変数。 ある集合の値をたどる文字。ふつうは、それが依存する、あるいはそれに依存するほかの文字といっしょに変わる。 独立変数と従属変数。 $y=f(x)$ では、$x$ は自由に選ばれ、$y$ は規則によって決まる。問いによってこの選択が逆になることもある。 パラメータ。 一つの問題のあいだは固定されているが、問題ごとに違う値をとりうる文字。族の中から一つの成員を選ぶ。 定数。 値がいつも同じ文字。$\pi$、$e$、光の速さ $c$ など。 自由な文字。 式の値がそれに依存する文字。$\sum_{k=1}^n k$ では $n$。 束縛された(ダミーの)文字。 演算子に縛られ、意味を変えずに別の文字に替えられる文字。$\sum_{k=1}^n k$ では $k$。 関数。 ある集合(定義域)の各要素に、別の集合のただ一つの要素を対応させる規則。$f$ が関数で、$f(x)$ は $x$ における値。 変数の捕獲。 同じ式の中で、同じ文字を自由な文字としても束縛された文字としても使ってしまう誤り。$\int_0^x x\,dx$ のように。 練習:手引きを使ってみる$\displaystyle V(r)=\frac43\pi r^3$ を読みなさい。$V$ は関数の名前で、$V(r)$ はその値。$r$ は独立変数で、半径。$\pi$ は定数。$\frac43$ は数。束縛された文字はありません。「体積が $36\pi$ になる半径は?」と問われれば、$r$ は未知数になります。$\frac43r^3=36$、$r^3=27$、$r=3$。

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文字がだますとき:学生、教授、りんご

1981 年、マサチューセッツ大学の三人の研究者、ジョン・クレメント、ジャック・ロックヘッド、ジョージ・モンクは、工学部の一年生に簡単な問題を出しました。 変数 $S$ と $P$ を使って、次の文を表す方程式を書きなさい。「この大学には、教授の 6 倍の学生がいる。」$S$ を学生の数、$P$ を教授の数とする。 およそ 37% が間違えました。そして間違えた人のほとんどが、同じものを書いたのです。 $$6S=P.$$なぜ 6S = P が正しく見えるのか 方程式 $6S=P$ は言葉の順序にしたがっています。「6 倍……学生……教授」。文を理解せずに文章を訳すような、一語ずつの翻訳です。その背後には、文字をラベルとして読む読み方があります。$6\,\text{m}$ の m が「メートル」を意味するように、$S$ は「学生」を意味する、と。そう読めば、$6S=P$ は「教授一人につき学生六人」と言っていて、それはまさに正しい考えです。 問題は、方程式の中の $S$ が「学生」という言葉ではなく、学生の数だということです。教授が $P=100$ 人なら学生は $600$ 人で、正しい方程式は $S=600$ を与えなければなりません。 $$S=6P.$$確かめるには数を代入すればよいのです。$P=100$ なら、間違った方程式は $6S=100$、つまり学生は $17$ 人足らずになってしまいます。ラベルとしての文字は、日常の言葉や測定の単位から来る自然な読み方で、学び捨てなければならないものです。 キュヒェマンの六つの読み方 同じ年、イギリスの研究者ディートマー・キュヒェマン(Dietmar Küchemann)は、13 歳から 15 歳の生徒を対象とした大規模な研究、CSMS プロジェクトの結果を発表しました。彼は、生徒が文字に少なくとも六通りの解釈を与えていることを示しました。いちばん単純なものから、いちばん進んだものまでです。 文字の読み方 生徒がすること 課題の例 値を当てはめる文字 すぐに文字に値を与える $a+5=8$ なら $a$ はいくつ? 使われない文字 文字を見ずに解く $e+f=8$ なら $e+f+g$ はいくつ? 物としての文字 文字をものとして扱う $2a+5b+a$ は「りんご 3 個とバナナ 5 本」 特定の未知数 文字が知られていない一つの数だと受け入れる $e+f=8$ なら $e+f+g=8+g$ 一般化された数 文字がいくつもの数でありうると受け入れる $c+d=10$ かつ $c

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ダミーの文字:和の k と積分の t

次の二つの式は同じ値です。 $$\sum_{k=1}^{4}k^2=1+4+9+16=30,\qquad\sum_{j=1}^{4}j^2=1+4+9+16=30.$$$k$ を $j$ に替えても何も変わりませんでした。文字は、計算がどこを通るかを示すためだけにそこにあり、和が終われば消えてしまいます。このような文字をダミーの文字、あるいは束縛された文字と呼びます。それは未知数の反対です。未知数は大事な値をしまっていますが、ダミーの文字は演算が終わったあとには何の値もしまっていません。 自由と束縛 今度は次の式と比べてみましょう。 $$\sum_{k=1}^{n}k=\frac{n(n+1)}{2}.$$ここには性質の違う二つの文字があります。$k$ は和に束縛されています。$\Sigma$ から式の終わりまでのあいだにだけ存在し、ほかのどんな文字にも替えられます。$n$ は自由です。結果は $n$ に依存します。$n$ を $m$ に替えると、別の数についての別の主張になります。 積分でも同じです。 $$\int_0^x t\,dt=\frac{x^2}{2}.$$$t$ は積分に束縛されていて、$dt$ が閉じ括弧のようにその範囲を示しています。$x$ は自由です。面積はどこまで積分するかによります。そして論理の量化子でも、 $$\forall x\,(x+0=x)$$の $x$ は $\forall$ に束縛されていて、文全体はどんな値にも依存しません。ただ正しいのです。 演算子 束縛される文字 範囲 $\displaystyle\sum_{k=1}^{n}$ $k$ うしろに続く項 $\displaystyle\int_a^b\cdots\,dt$ $t$ $\int$ と $dt$ のあいだ $\forall x,\ \exists x$ $x$ うしろに続く論理式 $\lim\limits_{h\to0}$ $h$ 極限の下の式 $\{x\mid x>2\}$ $x$ 波括弧の中 $x\mapsto x^2$ $x$ 関数の規則 文字を捕まえる誤り ダミーの文字は取り替えられるので、危険な誘惑があります。同じ文字を二つのものに使うことです。式 $$\int_0^x x\,dx$$は罠です。上端の $x$ は自由で、積分の中の $x$ は束縛されています。この式は「$x$ を $0$ から $x$ まで積分せよ」と言っているように見えますが、どの $x$ がどれなのかはっきりしません。正しい形は文字を分けます。$\int_0^x t\,dt=\frac{x^2}2$。論理学やプログラミングでは、この誤りには変数の捕獲という名前があり、プログラミング言語のコンパイラはこれを避けるために変数の名前を自動的に付け替えます。

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f、f(x)、x ↦ x²:関数に名前をつける三つの方法

第 1 章では、1734 年にオイラーが $f(x)$ を発明し、関数が穴のあいた文になったことを語りました(オイラーと関数)。この記事では、関数に名前をつけるさまざまな方法と、それぞれがもたらす混乱を見ます。 関数とその値 二つの文を比べてみましょう。 「関数 $f$ は増加する」 「$x>0$ のとき $f(x)$ は正である」 一つめでは、$f$ は関数全体、規則であり、微分したり、合成したり、グラフに描いたりできる対象です。二つめでは、$f(x)$ は数です。入力が $x$ のときに関数が返す値です。違いは、「電卓」と「画面に出ている数」の違いと同じです。 実際には、だれもが「関数 $f(x)=x^2$」と書き、問題になることはほとんどありません。けれども、区別が大事になる場合もあります。関数 $f$ の導関数は別の関数 $f'$ で、$f'(3)=2\cdot3=6$ です。先に $f(3)=9$ を計算してから「$9$ を微分する」と、定数の導関数はゼロなので $0$ になってしまいます。誤りは順序にあります。微分したのは数、つまり値 $f(3)$ であって、関数 $f$ ではなかったのです。 三つの書き方 「2 乗する」という同じ関数に、少なくとも三つの記法があります。 記法 読み方 由来 $f(x)=x^2$ $x$ における $f$ の値は $x^2$ オイラー、1734 年 $f:x\mapsto x^2$ $f$ は各 $x$ を $x^2$ に移す 20 世紀にブルバキ・グループが広めた $\lambda x.\,x^2$ $x$ を受け取って $x^2$ を返す関数 アロンゾ・チャーチ、1930 年代 矢印 $\mapsto$ には利点が一つあります。関数を入力から出力への移動として示し、$x$ が特定の数であるかのような印象を与えないことです。チャーチの $\lambda$ はさらに先へ進みます。関数に、名前のいらない名前を与えるのです。式 $\lambda x.\,x^2$ は関数そのものであり、$5$ が数そのものであるのと同じです。この考えから関数型プログラミング言語が生まれ、そこではたとえば lambda x: x**2 と書きます。

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パラメータ:ほかの文字が動くあいだ止まっている文字

方程式 $$y=ax^2+bx+c$$には五つの文字があり、それらは同じ水準にはありません。$x$ と $y$ は変わります。放物線上の点をたどります。そのあいだ、$a$、$b$、$c$ は止まっていますが、前もって好きなように選べます。選ぶたびに違う放物線ができます。このような文字をパラメータと呼びます。ギリシア語の pará(そば)と métron(尺度)から来ていて、尺度のそばにあってそれを調節するもの、という意味です。 この対話型の図を使うには JavaScript を有効にしてください。議論の全体は本文にあります。 パラメータを動かすのは、変数を動かすのと同じではありません。$x$ を動かすのは曲線の上を歩くことです。$a$ を動かすのは曲線を取り替えることで、放物線全体が開いたり閉じたりします。 一つの方程式、一つの族 これが、第 3 回で語ったヴィエトの大発明でした。問題で与えられた数にも文字を使うことです。方程式 $$ax^2+bx+c=0$$は一つの方程式ではなく、方程式の族です。$a\ne0$ である三つ組 $(a,b,c)$ ごとに一つあります。ここでは役割ははっきりしています。$x$ が未知数で、$a$、$b$、$c$ がパラメータです。公式 $$x=\frac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}$$は、未知数をパラメータで表すことで、族全体を一度に解きます。これによって、一つだけの方程式では立てられない問いが立てられます。パラメータがどんな値のとき解が二つあるか。答え $b^2-4ac>0$ は、一つの方程式についてではなく、族についての主張です。 物理の文字 物理はパラメータの王国です。等速運動 $$s=s_0+vt$$では、時刻 $t$ と位置 $s$ は運動のあいだ変わり、初めの位置 $s_0$ と速度 $v$ は固定されています。けれども運動が変われば、これらも変わります。理想気体の法則 $pV=nRT$ では、$R$ はすべての気体に共通の普遍定数、$n$ はある試料について固定、$p$、$V$、$T$ は変わります。一行の中に三段階の「止まっている」があり、それを区別する印は何もありません。 もう一つのパラメータ ややこしいことに、パラメータという言葉には二つめの意味があります。方程式 $$x=\cos t,\qquad y=\sin t$$では、文字 $t$ がパラメータと呼ばれ、これらの方程式は媒介変数表示(パラメータ表示)と呼ばれます。けれどもここでは $t$ は止まっていません。$0$ から $2\pi$ まで走り、走るあいだに点 $(x,y)$ が円を描きます。まるで $t$ が時間で、点が動く物体であるかのようです。この意味では、パラメータはほかの二つを操る隠れた変数です。 ハイパーパラメータ 人工知能では、この語彙にもう一階が加わりました。ニューラルネットワークが学習中に調整する数がそのパラメータで、何十億個もあります。プログラマーが前もって選び、学習を調節する数、たとえば学習率は、ハイパーパラメータになりました。構造は $y=ax^2+bx+c$ と同じです。動く文字、ほかの文字が動くあいだ止まっている文字、そしてそれらが止まっているあいだも止まっている文字。 練習:k がどんな値のとき解がただ一つになるか$x^2+kx+9=0$ では、$x$ が未知数、$k$ がパラメータです。判別式がゼロのとき解はただ一つです。$k^2-4\cdot9=0$、つまり $k=6$ または $k=-6$。$k=6$ なら解は $x=-3$、$k=-6$ なら $x=3$。問いはパラメータについてのもので、未知数は最後にしか出てきません。

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変数:動く文字

たえず増加または減少する量を変量と呼ぶ。反対に、ほかの量が変わるあいだ同じままである量を定量と呼ぶ。 — ロピタル侯爵『無限小解析』(1696)、定義 I 未知数は止まっている文字です。値を隠していて、その値は変わりません。変数は動く文字です。$y=x^2-4x+3$ では、「$x$ はいくつか」とはだれも問いません。問われるのは別のことです。「$x$ が変わると、$y$ はどうなるか」。 方程式から曲線へ 一方の考えから他方への移行は 17 世紀に起こりました。1637 年ごろ、デカルトとフェルマーが方程式と曲線を結びつけると、$y=x^2$ のような二つの文字をもつ方程式は、答えが一つではなく無限にあることになりました。放物線をつくるすべての組 $(x,y)$ です。$x$ は探されるものではなく、たどられるものになりました。それぞれの位置について、方程式は $y$ がどこにあるかを告げます。 この対話型の図を使うには JavaScript を有効にしてください。議論の全体は本文にあります。 流れる量 ニュートンはこの考えに物理的なイメージを与えました。彼にとって変数とは、動く物体の位置のように、時間とともに流れる量で、彼はそれを流量(fluent)と呼びました。それが流れる速さが流率(fluxion)です。ライプニッツは quantitas variabilis(変わる量)と言い、最初の微分積分学の教科書、1696 年のロピタルの本は、このページの冒頭に引いた定義で始まります。変数は増えたり減ったりし、定数は止まっている、と。 この言葉には運動のイメージがともなっています。だからわたしたちは、まるで文字が歩くかのように、「$x$ が $0$ に近づくとき」「$y$ が増える」「関数が上がる」と言うのです。 一つの文字がもう一つに依存する 二つの変数があると、依存の考えが現れます。1755 年、オイラーは『微分学教程』の序文で、ある量がほかの量に依存していて、後者が変わると前者も変わるとき、前者を後者の関数と呼ぶ、と書きました。$y=x^2-4x+3$ では、 $x$ は独立変数です。その値は自由に選べます。 $y$ は従属変数です。その値は規則によって決まります。 この選択は文字の中に書かれてはいません。$A=\pi r^2$ では、ふつう半径を独立と考えますが、「面積が $10$ m² になる半径は?」と問われれば、役割を入れ替えます。$r=\sqrt{A/\pi}$。 ワイエルシュトラスの止まった変数 運動のイメージは便利ですが、問題ももたらしました。$h$ が紙の上の文字にすぎないなら、「$h$ がゼロに近づく」とはどういう意味でしょう。19 世紀、カール・ワイエルシュトラスたちは定義から時間を取り除きました。変数は、ある集合、つまりその定義域の任意の要素で置き換えられる文字にすぎなくなりました。何も動きません。あるのは、ありうるすべての置き換えの集まりだけです。これが、$\varepsilon$ と $\delta$ を使ったコーシーとワイエルシュトラスの極限の定義の背後にある読み方です。 今日では二つのイメージが共存しています。「$x$ がどんどん大きくなると」と言う先生はニュートンの変数を使い、教科書の定義はワイエルシュトラスの変数を使います。記法は同じで、読者は一方から他方へ移れなければなりません。 定数は数字という意味ではない ロピタルにとって、定数とは「ほかの量が変わるあいだ同じままであるもの」です。数字で書かれた数である必要はありません。$y=ax^2$ では、$a$ は問題のあいだ定数ですが、どんな値でもかまいません。物理はこうした文字であふれています。重力加速度 $g$、気体定数 $R$、光の速さ $c$。次の記事ではそれを扱います。 練習:表から規則を見つけるある表に $x=0\to y=1$、$x=1\to y=3$、$x=2\to y=5$、$x=3\to y=7$ とあります。$x$ が $1$ 増えると $y$ は $2$ 増え、$x=0$ で $y$ は $1$ です。規則は $y=2x+1$。有限の表は規則を決して証明しないことに注意しましょう。別の規則がこの四点で一致し、$x=4$ で違うこともありえます。表はほのめかし、式は断言します。

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一般化する文字:3 + 5 = 5 + 3 から a + b = b + a へ

$3+5$ と $5+3$ を計算してみましょう。どちらも $8$ です。$12+7$ と $7+12$、$100+1$ と $1+100$ も試してください。いつもうまくいきます。でも、確信するには例がいくつ必要でしょうか。千個?百万個?いくつあっても足りません。数の組は無限にあるからです。 文 $$a+b=b+a$$は、この問題を別のやり方で解決します。特定の組については何も言わず、すべての組について一度に語るのです。ここでの文字 $a$ と $b$ は、未知数のように値を隠してはいません。どんな値でも表します。ユーシスキンが一般化された算術と呼んだのはこれです。 数を一つ思い浮かべて パーティーの古い手品です。数を一つ思い浮かべ、2 倍し、$6$ を足し、$2$ で割り、最初に思い浮かべた数を引きます。答えはいつも $3$ です。 例を使えば自信はつきます。$5$ なら $10$、$16$、$8$、$3$。$20$ なら $40$、$46$、$23$、$3$。文字を使えば確信できます。その数を $n$ と呼びましょう。 $$n\ \to\ 2n\ \to\ 2n+6\ \to\ \frac{2n+6}{2}=n+3\ \to\ (n+3)-n=3.$$文字は、例にはできないことをしました。すべての数を一度にたどったのです。そして手品がなぜうまくいくかも見せました。思い浮かべた数は入ってまた出ていき、$6$ を $2$ で割ったものだけが残るのです。 手品を一歩ずつ(クリックで進む) 数を一つ思い浮かべる:$n$。 2 倍する:$2n$。 $6$ を足す:$2n+6$。 $2$ で割る:$n+3$。 思い浮かべた数を引く:$(n+3)-n=3$。$n$ は消えた。答えは $n$ によらない。 奇数の和 はじめのほうの奇数を足していきます。$1=1$、$1+3=4$、$1+3+5=9$、$1+3+5+7=16$。平方数が現れます。これをすべての $n$ について言うには、文字が必要です。 $$1+3+5+\cdots+(2n-1)=n^2.$$式 $2n-1$ は $n$ 番めの奇数の肖像です。$n=1$ なら $1$、$n=4$ なら $7$ になります。証明は、別の文字と逆向きに書いた和で、少年ガウスのようにできます。並びを、逆にした自分自身と足すと、どの組も $2n$ になり、組は $n$ 個あるので、和の 2 倍は $2n\cdot n$、和は $n^2$ です。