十九世紀のはじめには、複素数はカルダーノやボンベリ以来三百年使われており、オイラーはそれを使って驚くべき成果をあげていた。ヴェッセル、アルガン、ガウスはそれを平面上の点として描いていた。それでも落ち着かなさは残っていた。いったい $\sqrt{-1}$ とは何なのか。二乗すると負になる数は、数学の対象というより、役に立つ作り話に見えた。

ハミルトンは何も描かずにこの問題を解決した。1833 年と 1835 年に王立アイルランド・アカデミーに提出し、1837 年に発表した論文『共役関数、すなわち代数的対の理論』で、彼は複素数とは実数の順序対そのものであり、それ以上のものではないと提案した。

ゲームの規則

対 $(a, b)$ と $(c, d)$ について、ハミルトンは次のように定義した。

$$(a, b) + (c, d) = (a + c,\; b + d), \qquad (a, b)\cdot(c, d) = (ac - bd,\; ad + bc).$$

$(a, 0)$ のかたちの対は実数とまったく同じようにふるまう。$(a, 0) + (c, 0) = (a + c, 0)$、$(a, 0)\cdot(c, 0) = (ac, 0)$ である。だから $(a, 0)$ を単に $a$ と書いてよい。そして対 $(0, 1)$ は特別な性質をもつ。

$$(0, 1)\cdot(0, 1) = (0 \cdot 0 - 1 \cdot 1,\; 0 \cdot 1 + 1 \cdot 0) = (-1, 0) = -1.$$

$(0, 1)$ を $i$ と呼べば、対 $(a, b)$ は $a + bi$ であり、$i^2 = -1$ となる。「マイナス一の平方根」は謎ではなくなった。それは、はっきり定められた掛け算の規則に従う実数の対である。複素数について行うことはすべて、実数の算術で確かめることができる。

なぜこの規則なのか

掛け算の規則は勝手に決めたように見えるが、ハミルトンが絶対値の法則と呼んだ貴重な性質をもっている。$(a, b)$ の絶対値は $\sqrt{a^2 + b^2}$、つまり原点からの距離である。そして積の絶対値は絶対値の積になる。

$$(a^2 + b^2)(c^2 + d^2) = (ac - bd)^2 + (ad + bc)^2.$$

これはディオファントスやブラーマグプタも知っていた古い恒等式であり、複素数の掛け算を幾何的な操作にしているのはこれである。絶対値 1 の複素数を掛けることは、平面を回すことだ。$i$ を掛けると $90°$ 回る。

次の一歩

対が平面とその回転を記述するなら、同じことを三次元空間で行う三つ組 $(a, b, c)$、つまり $a + bi + cj$ はないだろうか。ハミルトンは絶対値の法則に従う三つ組の掛け算を求めた。積の大きさは大きさの積でなければならない。この問いは十年以上彼をとらえ、その意外な答えは四元数の中にある。

練習:対を掛ける

$(1, 2)\cdot(3, 4)$ を計算し、絶対値の法則を確かめよ。

$(1 \cdot 3 - 2 \cdot 4,\; 1 \cdot 4 + 2 \cdot 3) = (-5, 10)$ である。絶対値の二乗は $1 + 4 = 5$ と $9 + 16 = 25$ で、積の絶対値の二乗は $25 + 100 = 125 = 5 \cdot 25$ である。絶対値の法則は成り立つ。

練習:i で回す

対 $(a, b)$ に $i = (0, 1)$ を掛けると、反時計回りに $90°$ 回した対が得られることを示せ。

$(a, b)\cdot(0, 1) = (a \cdot 0 - b \cdot 1,\; a \cdot 1 + b \cdot 0) = (-b, a)$ である。点 $(a, b)$ は $(-b, a)$ に移る。長さは同じで、もとの向きと垂直であり、四分の一回転先にある。たとえば $(1, 0)$ は $(0, 1)$ に、それは $(-1, 0)$ に移る。

出典: William Rowan Hamilton, “Theory of Conjugate Functions, or Algebraic Couples; with a Preliminary and Elementary Essay on Algebra as the Science of Pure Time”, Transactions of the Royal Irish Academy(1837)· Thomas L. Hankins, Sir William Rowan Hamilton(1980)· Paul J. Nahin, An Imaginary Tale(1998)。


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