四元数:橋の上の公式
複素数が実数の対であり、その掛け算が平面を回すことを示したあと、ハミルトンは同じことを空間で行いたいと考えた。彼は三つ組 $a + bi + cj$ と、絶対値の法則を満たす掛け算を探していた。積の大きさは大きさの積でなければならない。何年も、とりわけ 1843 年には熱心に試み、子どもたちが毎朝、三つ組はもう掛けられるようになったかと尋ねるほどだった。
三つではなぜだめか
算術の中に障害が隠れている。もし絶対値の法則を満たし、係数が整数である三つ組の掛け算の規則があれば、三つの平方の和どうしの積は、いつも三つの平方の和になるはずだ。ところが
$$3 = 1^2 + 1^2 + 1^2, \qquad 5 = 2^2 + 1^2 + 0^2, \qquad 3 \times 5 = 15$$であり、$15$ は三つの平方の和ではない(試してみよう。使える平方は $0, 1, 4, 9$ で、どの三つを組み合わせても $15$ にはならない)。四つの平方なら難しさは消える。$15 = 9 + 4 + 1 + 1$ である。しかも 1748 年以来、オイラーの四平方恒等式が知られていた。四つの平方の和どうしの積はいつも四つの平方の和になる、というものだ。自然は三つではなく四つの部分を求めているように見えた。
散歩
1843 年 10 月 16 日、月曜日、ハミルトンは王立アイルランド・アカデミーの会議の議長を務めるため、妻とともにロイヤル運河沿いをダンシンクからダブリンへ歩いていた。二十二年後、彼は自らその場面を息子に語っている。
妻はときどき話しかけてきたが、わたしの心の中では思考の底流が続いていて、それがついに一つの結果をもたらした。その重要さをすぐに感じたと言っても言いすぎではない。電気の回路が閉じたように思われ、火花が飛んだ。[……] そして、哲学的とは言えなかったかもしれないが、ブルーアム橋を通りかかったとき、記号 i、j、k を使った基本公式をナイフでその石に刻みたいという衝動を、わたしは抑えることができなかった。
— ウィリアム・ローワン・ハミルトン、息子アーチボルドへの手紙(1865)
その公式は
$$i^2 = j^2 = k^2 = ijk = -1$$である。
掛け算の表
四元数とは、四つの実数をもつ $q = a + bi + cj + dk$ である。すべての積は橋の上の公式から出てくる。$ijk = -1$ に右から $k$ を掛けると $ijk^2 = -k$、つまり $-ij = -k$ となり、$ij = k$ が得られる。同じようにして、
$$ij = k, \quad jk = i, \quad ki = j, \qquad ji = -k, \quad kj = -i, \quad ik = -j.$$ここに大胆さがある。$ij = k$ なのに $ji = -k$ なのだ。**掛ける順序が積を変える。**古代以来、知られているあらゆる数は $ab = ba$ に従っていた。ハミルトンは、これが成り立たない役に立つ代数を意図的につくった最初の人であり、その代償と引きかえに報酬を得た。絶対値の法則が成り立つのである。$q = a + bi + cj + dk$ の大きさは $\lvert q \rvert = \sqrt{a^2 + b^2 + c^2 + d^2}$ で、
$$\lvert pq \rvert = \lvert p \rvert\,\lvert q \rvert.$$これはまさにオイラーの四平方恒等式であり、いまや代数的な意味をもつようになった。
練習:順序が大切
$(1 + i)(1 + j)$ と $(1 + j)(1 + i)$ を計算せよ。
$(1 + i)(1 + j) = 1 + j + i + ij = 1 + i + j + k$。$(1 + j)(1 + i) = 1 + i + j + ji = 1 + i + j - k$。二つの積は $k$ の符号だけが違うが、たしかに違う。どちらも大きさは $\sqrt{4} = 2 = \sqrt2 \cdot \sqrt2$ で、絶対値の法則のとおりである。
練習:jk = i を導く
$i^2 = j^2 = k^2 = ijk = -1$ から、$jk = i$ を示せ。
$ijk = -1$ に左から $i$ を掛けると $i^2 jk = -i$、つまり $-jk = -i$ となり、$jk = i$ である。正しい側から掛ける必要があったことに注意しよう。非可換な代数では、左から掛けることと右から掛けることは別の操作なのだ。
出典: William Rowan Hamilton, Archibald Hamilton 宛の手紙(1865)、R. P. Graves, Life of Sir William Rowan Hamilton、第 2 巻(1885)所収 · William Rowan Hamilton, Lectures on Quaternions(1853)· John Baez, “The Octonions”, Bulletin of the AMS(2002)· ハミルトンの伝記、MacTutor。