ゼータ関数
リーマンの名がついたこの関数は、それ以前にオイラーが調べていた。1 より大きい実数 $s$ に対して、級数
$$\zeta(s) = 1 + \frac{1}{2^s} + \frac{1}{3^s} + \frac{1}{4^s} + \cdots = \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^s}$$は収束する。オイラーはその値をいくつも計算した。たとえばバーゼル問題の答え $\zeta(2) = \frac{\pi^2}{6}$ である。
オイラー積
オイラーのもっとも深い発見は 1737 年のもので、同じ関数が素数にわたる積として書けるということだった。
$$\zeta(s) = \prod_{p \text{ は素数}} \frac{1}{1 - p^{-s}} = \frac{1}{1 - 2^{-s}}\cdot\frac{1}{1 - 3^{-s}}\cdot\frac{1}{1 - 5^{-s}}\cdots$$理由は素因数分解の一意性である。各因子は等比級数で、$\frac{1}{1 - 2^{-s}} = 1 + \frac{1}{2^s} + \frac{1}{4^s} + \frac{1}{8^s} + \cdots$ となる。すべての素数の因子を掛けて展開すると、どの整数 $n$ も、その素数のべきの積としてちょうど一回ずつ現れる。たとえば $\frac{1}{12^s}$ は、2 の因子から $\frac{1}{4^s}$ を、3 の因子から $\frac{1}{3^s}$ を選んだものである。左辺は整数のことだけを、右辺は素数のことだけを語っている。この公式は両者をつなぐ橋であり、オイラーはこれを使って素数が無限にあることの新しい証明を与えた。
複素変数
博士論文を複素関数にささげたリーマンは、1859 年の論文で決定的な一歩を踏み出した。$s$ を複素数 $s = \sigma + it$ にしたのである。実部 $\sigma$ が 1 より大きければ、$|n^{-s}| = n^{-\sigma}$ なので級数はやはり収束する。
しかしリーマンはさらに、この関数が複素平面全体に延長できることを示した。例外はただ一つ、関数が無限大になる $s = 1$ だけである。$\sigma > 1$ の外では級数はもう収束しないが、関数は存在しつづけ、級数が収束するところでは級数と一致する別の式で定義される。これを解析接続という。微分可能な複素関数は、そのどんな一部分によっても完全に決まってしまうのである。
s と 1 − s のあいだの対称性
リーマンは、延長された関数がみごとな対称性、すなわち関数等式をもつことを発見した。
$$\zeta(s) = 2^s\,\pi^{s-1}\,\sin\!\left(\frac{\pi s}{2}\right)\Gamma(1 - s)\,\zeta(1 - s).$$ここで $\Gamma$ は階乗を拡張したガンマ関数である。この等式は $s$ での値と、縦の直線 $\sigma = \frac{1}{2}$ について対称な点 $1 - s$ での値を結びつける。この直線が臨界線で、リーマン予想の中心になる。
関数等式から、たとえば $\zeta$ が負の偶数 $-2, -4, -6, \ldots$ でゼロになる理由がわかる。そこではサインがゼロになるのである。これらが自明な零点である。それ以外のすべての零点、つまり非自明な零点は、帯 $0 < \sigma < 1$、臨界帯のなかにある。
練習:s = 2 のオイラー積
積 $\frac{1}{1 - 2^{-2}}\cdot\frac{1}{1 - 3^{-2}}\cdot\frac{1}{1 - 5^{-2}}\cdot\frac{1}{1 - 7^{-2}}$ を計算し、$\zeta(2) = \frac{\pi^2}{6} \approx 1.6449$ とくらべよ。
因子は $\frac{4}{3}$、$\frac{9}{8}$、$\frac{25}{24}$、$\frac{49}{48}$ である。積は $\frac{4 \cdot 9 \cdot 25 \cdot 49}{3 \cdot 8 \cdot 24 \cdot 48} = \frac{44\,100}{27\,648} \approx 1.5951$。最初の四つの素数だけで値の 97% に達し、残りはほかの素数が埋める。
練習:n の複素数乗の大きさ
$s = \sigma + it$ のとき $|n^{-s}| = n^{-\sigma}$ であることを示し、$\sigma > 1$ で $\zeta(s)$ の級数が収束することを導け。
$n^{-s} = e^{-s\ln n} = e^{-\sigma\ln n}\,e^{-it\ln n}$ である。二つめの因子は $e^{i\theta}$ の形なので絶対値は 1 である。よって $|n^{-s}| = e^{-\sigma\ln n} = n^{-\sigma}$。絶対値の級数は $\sum n^{-\sigma}$ で、$\sigma > 1$ で収束する。したがって複素級数はこの領域で絶対収束する。
出典: Leonhard Euler、「Variae observationes circa series infinitas」(1737、1744 年刊) · Bernhard Riemann、「Ueber die Anzahl der Primzahlen unter einer gegebenen Grösse」、Monatsberichte der Berliner Akademie(1859 年 11 月) · Harold M. Edwards、Riemann’s Zeta Function(1974) · John Derbyshire、Prime Obsession(2003)。