ある車が午後 2 時に 120 キロ地点を、3 時に 210 キロ地点を通過した。平均の速さは

$$\frac{\Delta s}{\Delta t}=\frac{210-120}{15-14}=90\ \text{km/h}$$

である。ギリシア文字の大文字デルタ $\Delta$ は、ギリシア語の $D$ で、差(difference)を表す。$\Delta s$ は「デルタかける $s$」ではない。「$s$ がどれだけ変わったか」を意味する一つの記号である。物差しと時計があればできる、本物の数による計算である。

しかし速度計が示すのは一時間の平均の速さではない。今の速さである。そして「今」には長さがない。$\Delta t=0$ で、ゼロで割ることには意味がない。微積分はこの行き詰まりを極限への移行によって解き、その記法は形を変えずに移行についていく。

縮んでいく分数

$y=x^2$ と点 $x=a$ をとる。右へ $\Delta x$ 進むと、$y$ の変化は

$$\Delta y=(a+\Delta x)^2-a^2=2a\,\Delta x+(\Delta x)^2,$$

平均変化率は

$$\frac{\Delta y}{\Delta x}=2a+\Delta x$$

である。ここで $\Delta x$ を縮めていく。変化率は $2a$ に近づき、残りの $\Delta x$ は消える。残ったものにライプニッツの名がつく。

$$\frac{dy}{dx}=\lim_{\Delta x\to0}\frac{\Delta y}{\Delta x}=2a.$$

記法が何をしたかに注目しよう。分数 $\frac{\Delta y}{\Delta x}$ が分数 $\frac{dy}{dx}$ になった。形は保たれ、ギリシア文字がラテン文字に替わっただけである。$d$ は縮んだ $\Delta$ なのである。この見た目の連続性は大きな強みである。有限の差の分数を扱える人は、すでに導関数の扱い方について直感をもっている。そしてこれは誤りの源でもある。導関数は二つの数の分数ではない。似ていることがどこで崩れるかは次の文章で示す。

Δy は dy ではない

現代の書き方では、$\Delta y$ と $dy$ は別のものであり、区別しておく価値がある。歩幅 $\Delta x$ に対して、

  • $\Delta y=f(x+\Delta x)-f(x)$ は関数の本当の変化である。
  • $dy=f'(x)\,\Delta x$ は接線に沿った変化、つまり一次近似である。

$y=x^2$、$x=3$、$\Delta x=0.1$ では、$\Delta y=3.1^2-3^2=0.61$、一方 $dy=6\cdot0.1=0.6$。差の $0.01=(\Delta x)^2$ は $\Delta x$ に比べて小さく、歩幅が縮むほどさらに小さくなる。近似計算で $\Delta y$ のかわりに $dy$ を使ってよい理由はこれである。

この近似は科学で最もよく使われる道具の一つである。$\sqrt{4.1}$ はいくつか。$f(x)=\sqrt x$ とすると $f'(x)=\frac1{2\sqrt x}$ で、$x=4$ では

$$\sqrt{4.1}\approx\sqrt4+\frac{1}{2\sqrt4}\cdot0.1=2+0.025=2.025.$$

本当の値は $2.02485\ldots$ で、誤差は小数第 5 位にある。

練習:y = x³ の Δ

$y=x^3$ について、$a=1$、$\Delta x=0.1$ で $\frac{\Delta y}{\Delta x}$ を計算し、次に極限を求めよ。

$\Delta y=1.1^3-1=1.331-1=0.331$ なので、$\frac{\Delta y}{\Delta x}=3.31$。一般に $\frac{(1+\Delta x)^3-1}{\Delta x}=3+3\Delta x+(\Delta x)^2$ で、これは $3$ に近づく。$x^3$ の $x=1$ での導関数は $3\cdot1^2=3$ である。

練習:Δy のかわりに dy を使う

微分を使って $1.02^5$ を見積もれ。

$f(x)=x^5$、$f'(x)=5x^4$ とし、$x=1$、$\Delta x=0.02$ とすると、$dy=5\cdot0.02=0.1$ なので $1.02^5\approx1.1$。正確な値は $1.10408\ldots$ である。誤差は、微分が無視した $(\Delta x)^2$ 以上の項から来る。


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