微積分の先生はよく、二つのことを同時に言う。「$\frac{dy}{dx}$ は分数ではない」と「$du$ は分数のように約してよい」。どちらも正しく、それこそがライプニッツの記法の強さであり危うさである。それは分数のように見え、たいていの計算では分数のようにふるまう。似ていることがどこで通用し、どこで崩れるかを知ることは、数学を読むうえで最も繊細な能力の一つである。

うまくいくところ

連鎖律。 $y$ が $u$ に、$u$ が $x$ に依存するなら

$$\frac{dy}{dx}=\frac{dy}{du}\cdot\frac{du}{dx}.$$

$du$ が分数のように「約される」。$y=(x^2+1)^{10}$ で $u=x^2+1$ とすると、$\frac{dy}{du}=10u^9$、$\frac{du}{dx}=2x$ なので、$\frac{dy}{dx}=20x(x^2+1)^9$。

逆関数。 $y=e^x$ なら $x=\ln y$ で、

$$\frac{dx}{dy}=\frac{1}{dy/dx}=\frac1{e^x}=\frac1y.$$

分数をひっくり返すと、$\ln y$ の導関数が出てくる。ほかの記法では定理を要する規則が、ここでは紙を裏返すだけで出てくる。

変数分離。 $\frac{dy}{dx}=ky$ では、$dx$ を「反対側へ移す」。

$$\frac{dy}{y}=k\,dx\quad\Longrightarrow\quad\ln y=kx+C\quad\Longrightarrow\quad y=Ce^{kx}.$$

厳密な数学者は「反対側へ移す」に顔をしかめるが、結果は正しく、この種の計算ではいつも正しいことを保証する定理がある。

崩れるところ

2 階導関数。 $\frac{d^2y}{dx^2}$ という書き方は「$d^2y$ を $dx^2$ で割る」と言っているように見え、$\frac{d^2y}{dx^2}=\left(\frac{dy}{dx}\right)^2$ だと結論したくなる。$y=x^2$ では $\frac{d^2y}{dx^2}=2$ だが、$\left(\frac{dy}{dx}\right)^2=4x^2$。まったく関係がない。さらに悪いことに、2 階導関数の連鎖律は 2 階導関数どうしの積ではない。

$$\frac{d^2y}{dx^2}=\frac{d^2y}{du^2}\left(\frac{du}{dx}\right)^2+\frac{dy}{du}\cdot\frac{d^2u}{dx^2}$$

で、どんな「約分」も予告しない項が一つ余計にある。

偏導関数。 理想気体では $pV=nRT$ である。三つの量のどれも、残りの二つの関数として書けて、偏導関数は

$$\frac{\partial p}{\partial V}=-\frac{p}{V},\qquad\frac{\partial V}{\partial T}=\frac{nR}{p},\qquad\frac{\partial T}{\partial p}=\frac{V}{nR}.$$

もし分数なら、積は約されて $1$ になるはずである。ところが

$$\frac{\partial p}{\partial V}\cdot\frac{\partial V}{\partial T}\cdot\frac{\partial T}{\partial p}=-\frac pV\cdot\frac{nR}p\cdot\frac{V}{nR}=-1.$$

マイナスは、記法が隠しているものから来る。それぞれの $\partial$ は別々の変数を固定しており、その変数は書かれていない。一つめの因子の $\partial p$ と三つめの因子の $\partial p$ は同じ対象ではない。物理学者はこれを知っていて、熱力学では固定する変数を添字で書く。$\left(\frac{\partial p}{\partial V}\right)_T$。

では、分数なのか

ライプニッツにとっては分数だった。$dy$ と $dx$ は無限に小さな量であり、$\frac{dy}{dx}$ はその比だった。19 世紀、コーシーとワイエルシュトラスの厳密化は無限小を極限に置き換え、$\frac{dy}{dx}$ は分けられない一つの記号になった。1960 年代、論理学者エイブラハム・ロビンソンは、注意深くすれば本当に無限に小さな数をつくれることを示し、この超準解析では、導関数はわずかな調整のもとで再び比になる。

短く答えれば、独立変数が一つで微分の階数が一つのとき、$\frac{dy}{dx}$ は分数のようにふるまう。それを超えたら、確かめなければならない。

練習:正弦の逆関数

$\frac{dx}{dy}=\frac{1}{dy/dx}$ を使って、$x=\arcsin y$($-1

$y=\sin x$ なら $\frac{dy}{dx}=\cos x=\sqrt{1-\sin^2x}=\sqrt{1-y^2}$(適切な区間で $\cos x>0$)。したがって $\frac{dx}{dy}=\frac{1}{\sqrt{1-y^2}}$ で、これが逆正弦の導関数である。

練習:連鎖律による 2 階導関数

$y=u^3$、$u=2x$ について、二つの項をもつ式で $\frac{d^2y}{dx^2}$ を計算し、$y=8x^3$ を直接微分して確かめよ。

$\frac{d^2y}{du^2}=6u$、$\frac{du}{dx}=2$、$\frac{dy}{du}=3u^2$、$\frac{d^2u}{dx^2}=0$。式から $6u\cdot4+0=24u=48x$。直接には $y=8x^3$、$y'=24x^2$、$y''=48x$。一致する。ここで二つめの項がゼロなのは $u$ が一次式だからで、$u=x^2$ ならゼロにならない。


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