1859 年の素数についての論文のなかほどで、リーマンはほとんどついでのように一文を書いている。ゼータに関係するある関数、その実根がゼータの臨界線上の零点に対応する関数について、彼はこう述べる。

すべての根が実数である可能性はきわめて高い。もちろん、その厳密な証明が望まれる。しかし私は、何度か手早く試みてうまくいかなかったので、その探求はひとまずわきに置いた。私の研究の次の目的にとっては、それは必要ないように思われたからである。

— ベルンハルト・リーマン『与えられた数より小さい素数の個数について』(1859)

現代の言葉では、この一文がリーマン予想である。

ゼータ関数の非自明な零点はすべて、実部が $\frac{1}{2}$ に等しい。

臨界線

ゼータの自明な零点は負の偶数にある。それ以外の零点はすべて帯 $0 < \sigma < 1$ のなかにあり、関数等式により、直線 $\sigma = \frac{1}{2}$、すなわち臨界線について対称に現れる。予想は、それらがすべてちょうどこの直線の上にあるというのである。

臨界線の上では、$\zeta\left(\frac{1}{2} + it\right)$ に絶対値 1 の因子を掛けると実数値の関数 $Z(t)$ になり、各零点で符号を変える。グラフは $t = 10$ から $t = 60$ までの $Z(t)$ を示している。

最初の零点は $t \approx 14.135$、$21.022$、$25.011$、$30.425$、$32.935$… にある。簡単な規則には従わないが、しだいに密になる。高さ $T$ までにおよそ $\frac{T}{2\pi}\ln\frac{T}{2\pi e}$ 個の零点がある。

リーマンの秘密の計算

リーマンは零点の計算をまったく発表しなかった。そのため何十年ものあいだ、「可能性がきわめて高い」という言葉は当て推量だと考えられていた。1932 年、カール・ルートヴィヒ・ジーゲルはリーマンがゲッティンゲンに残したメモを調べ、そこに臨界線上の $\zeta$ を計算する精巧な漸近公式を見つけた。リーマンはそれを使って最初の零点を見つけていたのである。いまリーマン=ジーゲルの公式と呼ばれるこの式は、上の図でも使われており、現代の計算の基礎でありつづけている。

わかっていること

  • 1914 年、G. H. ハーディは、臨界線上に無限に多くの零点があることを証明した。
  • 1942 年、アトル・セルバーグは零点のうち正の割合が臨界線上にあることを示し、1989 年、ブライアン・コンリーは 40% 以上がそうであることを示した。
  • コンピュータはすでに十兆個を超える零点を確かめており、そのすべてが臨界線上にある。

どれも証明ではない。素数の理論に出てくる数はあまりに大きく、反例がどんな計算の届く範囲よりもはるか先にあるかもしれないのである。

なぜ重要なのか

予想が正しければ、素数の個数の誤差は考えうるもっとも小さいものになる。$\pi(x)$ と $\operatorname{li}(x)$ の差は、高々 $\sqrt{x}\,\ln x$ 程度におさまる。素数は、一見でたらめなその性質が許すかぎり規則正しく並んでいることになる。すでに何百もの定理が「リーマン予想が正しければ……」という形で証明されており、それらがいっぺんに証明されることになるのである。

練習:50 までに零点はいくつあるか

公式 $N(T) \approx \frac{T}{2\pi}\ln\frac{T}{2\pi e}$ を使って、$0 < t < 50$ の零点の個数を見積もり、図とくらべよ。

$\frac{50}{2\pi} \approx 7.96$、$\frac{50}{2\pi e} \approx 2.93$ で、その対数は $\approx 1.07$ である。よって $N(50) \approx 7.96 \times 1.07 \approx 8.5$。完全な公式にはさらに $+\frac{7}{8}$ の項があり、$\approx 9.4$ となる。図では $t = 50$ までに 14.1、21.0、25.0、30.4、32.9、37.6、40.9、43.3、48.0、49.8 の 10 個の零点がある。小さな値でも見積もりはよく合っている。

練習:零点の対称性

関数等式から、$\rho$ が非自明な零点なら $1 - \rho$ も零点である。さらに $\zeta$ は実数で実数値をとるので、共役 $\bar{\rho}$ も零点である。$\rho = \sigma + it$ が臨界線の外にある零点だとしたら、「ただで」いくつの零点が現れるか。

$\sigma + it$、$\sigma - it$、$(1 - \sigma) - it$、$(1 - \sigma) + it$ の四つで、臨界線を中心とする長方形の頂点にある。$\sigma = \frac{1}{2}$ なら長方形はつぶれて二点 $\frac{1}{2} \pm it$ になる。予想の反例は、つねに少なくとも三つの仲間をつれて現れるのである。

出典: Bernhard Riemann、「Ueber die Anzahl der Primzahlen unter einer gegebenen Grösse」(1859) · Carl Ludwig Siegel、「Über Riemanns Nachlaß zur analytischen Zahlentheorie」、Quellen und Studien zur Geschichte der Mathematik 2(1932) · Enrico Bombieri、「Problems of the Millennium: The Riemann Hypothesis」、クレイ数学研究所(2000) · Harold M. Edwards、Riemann’s Zeta Function(1974) · Xavier Gourdon、「The 10¹³ first zeros of the Riemann Zeta function, and zeros computation at very large height」(2004)。


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