ラプラス変換
対数は掛け算を足し算に変える。二つの数を掛けるには、それぞれの対数を足して元に戻せばよい。ラプラス変換は微分方程式に対して似たことをする。微分を掛け算に置きかえるのである。代数の方程式を解いてから、元に戻す。
起源
ラプラスはこの考えに確率論を通じてたどり着いた。1812 年の『確率の解析的理論』で、彼は母関数を使って計算を整理した。確率の列をそのまま扱うかわりに、それらをすべて収めたひとつの関数を扱ったのである。この考えの連続版が次の積分で、オイラーも以前に使っていたが、ラプラスはこれを系統的に調べた。
$$F(s) = \int_0^{\infty} e^{-st} f(t)\,dt.$$各関数 $f(t)$ は新しい関数 $F(s)$、すなわちそのラプラス変換になる。これを $\mathcal{L}\{f\}$ と書く。
いくつかの例
定数 $f(t) = 1$ では
$$\mathcal{L}\{1\} = \int_0^{\infty} e^{-st}\,dt = \left[-\frac{e^{-st}}{s}\right]_0^{\infty} = \frac{1}{s} \quad (s > 0).$$指数関数 $f(t) = e^{at}$ では、指数どうしがまとまる。
$$\mathcal{L}\{e^{at}\} = \int_0^{\infty} e^{-(s-a)t}\,dt = \frac{1}{s-a} \quad (s > a).$$微分が掛け算になる
変換を役に立つものにしている性質は、部分積分から出てくる。
$$\mathcal{L}\{f'\} = \int_0^{\infty} e^{-st} f'(t)\,dt = \Big[e^{-st}f(t)\Big]_0^{\infty} + s\int_0^{\infty} e^{-st} f(t)\,dt = sF(s) - f(0).$$$f$ を微分することは、$F$ に $s$ を掛ける(そして初期値を引く)ことに対応する。微分方程式は代数の方程式になり、初期値ははじめから計算に組みこまれている。
ある回路
電池につないだ抵抗とコンデンサの回路では、コンデンサの電圧 $y(t)$ は、都合のよい単位で
$$y' + y = 1, \qquad y(0) = 0$$に従う。両辺を変換すると $sY - 0 + Y = \frac{1}{s}$、すなわち
$$Y(s) = \frac{1}{s(s+1)} = \frac{1}{s} - \frac{1}{s+1}.$$あとは表で変換を見分ければよい。$\frac{1}{s}$ は $1$ から、$\frac{1}{s+1}$ は $e^{-t}$ から来る。したがって
$$y(t) = 1 - e^{-t}.$$コンデンサは充電され、電池の電圧に近づいていく。実験室で観察されるとおりである。
工学を通じた復活
長いあいだ、この変換は確率論の小技として忘れられていた。十九世紀の終わり、イギリスの技術者オリヴァー・ヘヴィサイドは電気回路のための「演算子法」を考えだし、微分を掛けたり割ったりできる数のように扱った。結果は正しかったが、数学者たちにはその理由がわからなかった。1910 年代にトマス・ブロムウィッチらが、ヘヴィサイドの方法は要するにラプラス変換であることを示し、1930 年代にグスタフ・デッチュがそれに厳密な基礎を与えた。それ以来、この変換は制御、信号、回路の分野で、あらゆる工学の授業に登場している。
練習:t の変換
$\mathcal{L}\{t\}$ を求めよ。
$u = t$、$dv = e^{-st}dt$ として部分積分すると
$$\int_0^{\infty} t\,e^{-st}\,dt = \left[-\frac{t\,e^{-st}}{s}\right]_0^{\infty} + \frac{1}{s}\int_0^{\infty} e^{-st}\,dt = 0 + \frac{1}{s}\cdot\frac{1}{s} = \frac{1}{s^2}.$$微分の規則を使ってもよい。$t$ の微分は 1 で、$t = 0$ で 0 だから、$s\,\mathcal{L}\{t\} = \mathcal{L}\{1\} = \frac{1}{s}$ となる。
練習:指数関数的な増加
変換を使って、$y(0) = 2$ のもとで $y' = 3y$ を解け。
変換すると $sY - 2 = 3Y$ だから $Y = \frac{2}{s-3}$ である。表によれば $\frac{1}{s-3}$ は $e^{3t}$ から来るので、$y(t) = 2e^{3t}$ となる。
出典: Pierre-Simon Laplace、Théorie analytique des probabilités(1812)、第 I 巻 · Michael A. B. Deakin、「The Development of the Laplace Transform, 1737–1937」、Archive for History of Exact Sciences 25(1981)および 26(1982) · Gustav Doetsch、Theorie und Anwendung der Laplace-Transformation(1937) · Paul J. Nahin、Oliver Heaviside: Sage in Solitude(1988)。