光線系と円錐屈折
十九世紀のはじめ、光学は個別の事例の寄せ集めだった。平面鏡、曲面鏡、レンズ、プリズム、それぞれに公式がある。まだ学生だったハミルトンは、それらすべての背後にただ一つの考えがあるのではないかと考えた。その結果が『光線系の理論』である。1827 年に王立アイルランド・アカデミーで読まれ、その後の数年で拡張された。
すべての光線を支配する一つの関数
出発点はフェルマーの原理である。光はある点から別の点へ、かかる時間が最小になる道筋、より正確には時間が停留値をとる道筋を通る。ハミルトンはこの時間を端点の関数と考えた。二点 $A$ と $B$ について、$V(A, B)$ を両者のあいだの光の道筋の「光路長」、つまり各媒質を進む距離にその媒質の屈折率を掛けたものとする。彼は $V$ を特性関数と呼んだ。
驚くべきことに、このただ一つの関数がすべてを含んでいる。$V$ を $B$ の座標で微分すると、$B$ に届く光線の方向が得られ、$A$ の座標で微分すると、$A$ を出る光線の方向が得られる。$V$ を知ることは、系全体を知ることなのだ。
たとえば屈折率 $n$ の一様な媒質では、光はまっすぐ進み、
$$V(A, B) = n\,\lvert AB \rvert = n\sqrt{(x_B - x_A)^2 + (y_B - y_A)^2}$$となる。$x_B$ と $y_B$ で微分すると、
$$\frac{\partial V}{\partial x_B} = n\,\frac{x_B - x_A}{\lvert AB \rvert}, \qquad \frac{\partial V}{\partial y_B} = n\,\frac{y_B - y_A}{\lvert AB \rvert}$$であり、これは光線の方向の単位ベクトルに $n$ を掛けたものである。特性関数の勾配は光の方向を指す。
時間からスネルの法則へ
光線が空気中の $A$ を出て、水中の $B$ に届き、距離 $x$ の点で水面を横切るとする。かかる時間は
$$V(x) = n_1\sqrt{a^2 + x^2} + n_2\sqrt{b^2 + (d - x)^2}$$に比例する。ここで $a$ と $b$ は $A$ と $B$ の水面からの距離、$d$ は両者の水平距離である。実際の道筋は $V'(x) = 0$ となるものだ。
$$n_1\,\frac{x}{\sqrt{a^2 + x^2}} = n_2\,\frac{d - x}{\sqrt{b^2 + (d - x)^2}} \quad\Longleftrightarrow\quad n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2.$$一つの微分からスネルの法則が出てくるのである。
予言
1832 年、ハミルトンはこの理論を、霰石(あられいし)のような二軸性結晶に応用した。そこでは光の速さが方向に複雑なかたちで依存し、それはオーギュスタン・フレネルが記述していた。フレネルの波面を調べたハミルトンは、それが漏斗のかたちをした特異点をもつことに気づいた。もし光線がちょうどその特別な方向の一つに沿って結晶に入れば、一本の光線としても二本としても出てこず、光の円錐として出てきて、スクリーンに輪を描くはずである。
それを見た者は誰もいなかった。ハミルトンはトリニティ・カレッジの同僚ハンフリー・ロイドに、この効果を探してくれるよう頼んだ。霰石の結晶を使っておよそ二か月取り組んだのち、ロイドは輪を見た。数学がまったく新しい物理現象を、どんな観測よりも先に予言した最初期の例の一つであり、27 歳のハミルトンはヨーロッパじゅうで有名になった。
練習:勾配は光線を指す
屈折率 $n = 1.5$ のガラスの中を、光が $A = (0, 0)$ から $B = (3, 4)$ へ進む。$\frac{\partial V}{\partial x_B}$ と $\frac{\partial V}{\partial y_B}$ を計算し、そのベクトルの長さが $n$ であることを確かめよ。
$\lvert AB \rvert = 5$ なので、$\frac{\partial V}{\partial x_B} = 1.5 \cdot \frac35 = 0.9$、$\frac{\partial V}{\partial y_B} = 1.5 \cdot \frac45 = 1.2$ である。長さは $\sqrt{0.81 + 1.44} = \sqrt{2.25} = 1.5 = n$ で、方向は $A$ から $B$ への直線の方向である。
練習:水に入る光
光線が空気($n_1 = 1$)から水($n_2 = 1.33$)へ、入射角 $30°$ で進む。屈折角はいくらか。
$\sin\theta_2 = \frac{1 \cdot \sin 30°}{1.33} = \frac{0.5}{1.33} \approx 0.376$ なので、$\theta_2 \approx 22.1°$ である。光が遅くなる媒質に入るとき、光線は鉛直方向に近づく。
出典: William Rowan Hamilton, “Theory of Systems of Rays”, Transactions of the Royal Irish Academy(1828)および “Third Supplement”(1837)· Humphrey Lloyd, “On the phenomena presented by light in its passage along the axes of biaxal crystals”, Transactions of the Royal Irish Academy(1837)· Michael Berry, “Conical diffraction: Hamilton’s diabolical point at the heart of crystal optics”, Progress in Optics(2007)。
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