級数の収束
$1 - 1 + 1 - 1 + \cdots$ はいくつか。こう組にすれば $(1 - 1) + (1 - 1) + \cdots = 0$。ああ組にすれば $1 - (1 - 1) - (1 - 1) - \cdots = 1$。オイラーとライプニッツは、「正しい」答えは平均の $\frac{1}{2}$ だと考えた。十八世紀にはこうした和が自由に扱われ、その習慣はときにばかげた結果を生んだ。
部分和
『解析教程』の第 6 章で、コーシーはこの問題を根もとから断ち切った。級数 $u_0 + u_1 + u_2 + \cdots$ には部分和
$$s_n = u_0 + u_1 + \cdots + u_{n-1}$$がある。$n$ が大きくなるとき $s_n$ がある極限 $s$ に近づくなら、級数は収束し、$s$ がその和である。そうでなければ級数は発散し、コーシーの言葉でいえば「和をもたない」。$1 - 1 + 1 - \cdots$ では、部分和は永遠に 1 と 0 のあいだを跳びつづける。和はない。$\frac{1}{2}$ でも、ほかの何でもない。
コーシーの判定条件
困るのは、定義を使うには極限が何かを知らなければならないことだ。コーシーは項だけを見る判定法を与えた。
級数が収束するための必要十分条件は、n を増やしていくとき、和 s(n+1) − s(n)、s(n+2) − s(n)、s(n+3) − s(n)、… が、ついにはつねに、どんな指定された限界よりも小さな数値をとるようになることである。
— オーギュスタン=ルイ・コーシー『解析教程』(1821)
つまり、ある番号から先では、$\varepsilon$ がどれほど小さくても、すべての部分和がたがいに $\varepsilon$ 以内にある。この性質をもつ数列は、今日コーシー列とよばれる。
この判定条件を使うと、項がゼロに向かうにもかかわらず調和級数が発散する理由がすぐにわかる。$s_n$ から $s_{2n}$ までに $n$ 個の項を足すが、どれも $\frac{1}{2n}$ 以上である。
$$s_{2n} - s_n = \frac{1}{n+1} + \frac{1}{n+2} + \cdots + \frac{1}{2n} \ge n \cdot \frac{1}{2n} = \frac{1}{2}.$$どれほど先まで行っても、少なくとも $\frac{1}{2}$ だけ離れた二つの部分和がかならずある。図で級数と $\varepsilon$ を選び、どこから先で部分和が幅 $\varepsilon$ の帯におさまるかを見てほしい。
コーシーは判定条件の十分性を明らかなものとみなしていた。ほんとうにそれを証明するには実数とは何かを正確に知る必要があり、それがなされたのは 1872 年、デデキントとカントールによってだった。おもしろいことに、カントールはまさにコーシー列から実数を構成した。
べき根判定法
コーシーは実用的な判定法も与えた。いちばん強いのはべき根判定法である。大きな $n$ について $\sqrt[n]{|u_n|}$ を計算する。これらの数がいずれある $r < 1$ を下回るなら、項は等比数列 $r^n$ の項より小さくなるので、級数は収束する。1 を上回りつづけるなら、項はゼロに向かわず、級数は発散する。振動する数列を扱うために、コーシーは「極限のうちで最大のもの」を導入した。今日の上極限である。
たとえば $\sum \frac{n}{2^n}$ では
$$\sqrt[n]{\frac{n}{2^n}} = \frac{\sqrt[n]{n}}{2} \longrightarrow \frac{1}{2} < 1$$となる。$\sqrt[n]{n} \to 1$ だからだ。級数は収束する(和は 2)。
演習:n/2ⁿ の和
$\sum_{n \ge 1} \frac{n}{2^n}$ の最初の四つの部分和を計算し、和が 2 であることを示せ。
$s_1 = 0.5$、$s_2 = 0.5 + 0.5 = 1$、$s_3 = 1 + 0.375 = 1.375$、$s_4 = 1.375 + 0.25 = 1.625$。和を求めるため、$S = \frac{1}{2} + \frac{2}{4} + \frac{3}{8} + \cdots$ とおく。すると $\frac{S}{2} = \frac{1}{4} + \frac{2}{8} + \cdots$ で、引き算すると
$$S - \frac{S}{2} = \frac{1}{2} + \frac{1}{4} + \frac{1}{8} + \cdots = 1.$$よって $S = 2$。べき根判定法で級数の収束がすでに保証されているので、この計算は正当である。
演習:凝集判定法
コーシーのもうひとつの判定法によれば、項 $u_n$ が正で減少するなら、$\sum u_n$ が収束するのは $\sum 2^k u_{2^k}$ が収束するときであり、そのときにかぎる。これを使って、$\sum \frac{1}{n^p}$ がいつ収束するかを決めよ。
$u_n = \frac{1}{n^p}$ とすると、$2^k u_{2^k} = \frac{2^k}{2^{kp}} = \left(2^{1-p}\right)^k$ で、公比 $2^{1-p}$ の等比数列になる。これが収束するのは $2^{1-p} < 1$、つまり $p > 1$ のときであり、そのときにかぎる。したがって $\sum \frac{1}{n^2}$ は収束し、$\sum \frac{1}{n}$ は発散する。すでに見たとおりである。
出典: Augustin-Louis Cauchy、Cours d’analyse(1821)、第 6 章・第 9 章 · Niels Henrik Abel、「Untersuchungen über die Reihe 1 + m/1 x + …」、Journal für die reine und angewandte Mathematik 1(1826) · Judith V. Grabiner、The Origins of Cauchy’s Rigorous Calculus(1981) · Umberto Bottazzini、The Higher Calculus: A History of Real and Complex Analysis from Euler to Weierstrass(1986)。